「国の借金が過去最大」という報道の読み方

減税

誰の借金なのか

四半期ごとに、同じ見出しが並ぶ。国の借金が過去最大を更新した。国民1人当たりに換算すればいくらになる。財務省の発表を受けた報道が、判で押したように繰り返される。

数字そのものは正しい。国債と借入金、政府短期証券を合わせた残高は、たしかに増え続けている。問題は、その数字が何を意味するかである。そして、オールドメディアによる報道がその意味をほとんど説明しないことである。

まず、名称からして正確ではない。国の借金という言い方は、国民全体が返済義務を負っているかのような印象を与える。だが債務者は政府であって、国民ではない。国民はむしろ、貸し手の側にいる。

国債を保有しているのは、銀行、保険会社、年金基金であり、その原資は預金であり保険料であり年金の掛金である。つまり家計の資産だ。1人当たりいくらの借金、という換算は、貸している側に請求書を回して見せるようなものである。

正確に言うなら、これは緊縮という誤った財政運営によって生じた財務省の債務であり、その大部分は民間企業と家計が持つ債権である。

片側だけを見せる会計

もう一つ、報道が触れない論点がある。資産の側である。企業の財務状況を借入金の額だけで判断する者はいない。手元にどれだけの資産があるかを併せて見る。それが当たり前の見方である。

ところが国の財政となると、霞が関官僚の記者レクに則って負債の総額だけが報じられる。政府が保有する金融資産、すなわち年金積立金や外貨準備、政府系金融機関への出資を差し引いた純債務で見れば、状況は大きく異なる。しかもこれらの資産は、毎年相当額の運用収益を生んでいる。

実際に数字を追ってみると政府の純債務の対GDP比は、新型コロナへの対応で歳出が急増した2020年に160.8%まで上昇したが、そこが頂点であった。以後は低下が続き、2025年には136.5%となっている。これは2011年とほぼ同じ水準である。

政府純債務残高の対GDP比 出所:IMF World Economic Outlook(2026年4月)

債務残高そのものが減ったわけではない。分母である名目GDPが伸びたことによって、比率が下がったのである。財政再建とは本来こういうものだ。歳出を切り詰めて分子を削るのではなく、経済を成長させて分母を大きくする。過去5年間に起きていたのは、まさにそれであった。

ところが報道は、この事実をほとんど伝えない。伝えられるのは、総債務の残高が過去最大を更新したという一点だけである。

バランスシートの片側だけを見せて、危機を演出する。なぜ片側だけなのか。その理由を考えれば、この種の報道が何のために繰り返されているかも見えてくる。

何のための報道か

結論を言えば、増税への地ならしである。借金が過去最大だと繰り返し伝えられれば、人はそれを減らさねばならないと考える。減らす手段として真っ先に思い浮かぶのが増税である。減税を求める声は、財政規律の名のもとに退けられる。

しかし順序が逆である。財政の健全性は、借金の絶対額で測るものではない。名目成長率が名目金利を上回っている限り、債務残高の対GDP比は自然に下がっていく。ドーマーの条件と呼ばれるこの関係が、財政を判断する正しい基準である。

分子である債務を無理に削るのではなく、分母である名目GDPを伸ばす。これが最も確実な財政再建策だ。そして増税は、その分母を縮ませる。景気が過熱し、需要を抑える必要があるのならいざ知らず、輸入コストに押されて物価が上がっている局面で国内需要を削れば、成長率が下がり、税収基盤そのものが痩せる。

借金を減らそうとして、返済能力を削っていることになる。

誤解のないように付け加えておきたい。私は、国債はいくらでも発行できるというMMTのような立場には立たない。

自国通貨建てで借り入れている以上、名目上の債務不履行は起きにくい。それは事実である。しかし、そのことと財政に制約がないこととは別の話だ。供給能力を超えて需要を膨らませれば、待っているのは物価の急騰であり、好ましくないことは明らかである。

制約は財源の有無にあるのではなく、実物の供給能力にある。だからこそ、名目成長率と名目金利の関係を基準にすべきだと主張している。名目成長率が名目金利を上回るという条件が満たされている間は債務比率が下がり、満たされなくなれば手を打つ必要がある。

報道の責任

財務省が発表した数字を、そのまま見出しにする。記者レクの内容を検証せずに流す。それでは報道ではなく、役所の広報課の仕事の下請けである。

伝えるべきは、残高が過去最大だという事実ではない。その残高が誰に対する債務であり、資産の側はどうなっており、対GDP比がどう推移しているかである。数字の意味を正確に伝えること。それが報道の責任ではないか。

そして政策の側がなすべきは、残高の数字に怯えて増税を重ねることではない。名目成長率を名目金利より高く保ち、対GDP比を着実に引き下げていくことである。まず経済を成長させ、その果実で財政を立て直す。この順序を守ることが不可欠だ。

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