防衛力の増強と減税は、対立しない。経済力こそが国防の裏付けとなる。名目成長率を取り戻すことが、国民の手取りを増やし、同時に防衛費を賄う税収を生むからだ。
ただし、いまの議論には決定的な欠落がある。総額ばかりが語られ、配分が語られていない。金額を積み増しても、それを受け止める生産ラインと人がなければ、予算は使われないまま残るだけである。
平和は願うだけでは守れない
中国による台湾および尖閣への圧力、ロシアの侵略行動、北朝鮮の核とミサイル。これらは同時並行で進行しており、どれか1つに備えれば足りるという状況ではない。武力衝突には至らないグレーゾーンでの圧力にも、切れ目のない対応が要る。
抑止力の欠如こそが、戦争を招く。日米同盟を安全保障の中核に置くことに変わりはない。しかし同盟は、条約を結べば自動的に機能する装置ではない。仮想敵国にそう思わせて初めて抑止となる。米国の拡大抑止の信頼性を高める努力と、日本自身の防衛力整備を、両輪で進めるほかない。
そのうえで、憲法9条を改正し、自衛隊を憲法上に位置付けることが必要だ。国際法上すでに軍隊として扱われている現実を、国内法において明確にする。条文に書き込むだけでは足りない。現行の法制は、できる行動を1つずつ列挙する方式(ポジティブリスト)をとっており、できることは警察と変わらないのが現状である。想定外の事態では隊員が動けない。逆に、行動の結果が国内の刑法で裁かれかねない構造も残されている。隊員に対して国家が責任を負う仕組みを、正面から議論すべきである。
増額分の行き先は、弾薬と整備と施設である
防衛費と関連費の総額はすでに国内総生産比2パーセントに達し、約11兆円となった。今後、名目GDP比3パーセント程度が視野に入れば、防衛予算は19.6兆円程度になるとの試算もある。
問題は、その額が何に消えるかである。人件・糧食費は1人あたりおおむね900万円台であり、仮に3万人の欠員をすべて埋め、処遇を2割引き上げたとしても、人に使える額は4兆円前後で頭打ちになる。つまり増額分のほぼ全額が物件費に向かう。現行計画で最大の塊は新型ミサイルではなく、弾薬・誘導弾の備蓄、装備品の維持整備、施設の強靱化であり、43兆円のうち13兆円から18兆円規模を占めている。19.6兆円の時代とは、要するに弾と整備と施設の予算が倍増する時代である。
さらに厄介なのは、その予算が既に消化しきれていないことだ。計上したのに使わなかった不用額が生じ、装備取得の契約を年度内に締結できない事態が起きている。後年度負担額は16兆円を超え、単年度予算の相当部分は過去の契約の支払いに固定されている。
調達構造にも問題がある。防衛装備品の購入費のうち、米国からの有償援助による調達が半分を超えている。この構造のままでは、防衛費を増額してもその相当部分が輸入に充てられ、国内の生産も雇用も増えない。国内調達比率を引き上げることは、安全保障政策であると同時に、有効な経済政策でもある。
人の問題はさらに深刻だ。自衛官の現員は21万7,701人となり、1981年度以降で初めて22万人を割り込んだ。定員に対する充足率は88.1パーセント、最前線を担う士の充足率は57.8パーセントと6割を切っている。一方で採用者数は前年度比14.9パーセント増えた。採用を1割半増やしてなお、現員は減ったのである。
想定される反論に答える
第一に、防衛力を高めれば近隣国を刺激し、かえって緊張を高めるという批判がある。順序が逆である。抑止とは、攻撃した場合の損害が利益を上回ると相手に判断させることであり、その計算が成り立たなければ、こちらの意図とは無関係に圧力は強まる。ロシアのウクライナ侵略を見れば明らかである。実際に力による現状変更が試みられてきたのは、抑止が働かなかった場所である。
第二に、防衛費の増額は増税で賄うべきだという主張がある。景気が過熱し、需要を抑える必要があるならいざ知らず、現在の物価上昇の主因は輸入コストにある。国内需要を削る増税を重ねれば名目成長率が下がり、かえって国力を痩せさせる。単年度の収支合わせを最優先に置く限り、防衛力整備は常に後回しにされる。
第三に、人が集まらないのに装備だけ増やしても意味がないという指摘がある。これは正しい。だからこそ人件費は頭数ではなく単価で増やすべきだ。自衛官の処遇を上げるべきである。同時に、母集団である18歳人口が縮む以上、無人化と省人化によって隊員1人あたりの装備を厚くするほかない。これは人口減少下で戦力を維持する唯一の方法である。
いま決めるべきこと
総額の目標を掲げる前に、配分を決めることだ。当面は弾薬と誘導弾の生産能力、装備の可動率、施設の強靱化。ここを優先する。
民間企業が設備と人に投資できるよう、5年ではなく10年の生産計画と複数年度契約を示すこと。装備の単価は生産数量で決まる以上、輸出の道を開いて量産効果を働かせること。そして自衛官の処遇を全世代で引き上げ、予備自衛官を抜本的に拡充すること。
充足率88.1パーセント、士に至っては57.8パーセントという数字を放置したまま、19.6兆円を語ることはできない。金額ではなく中身を決めることが急務である。