「減税をすればインフレが悪化する」という誤解について

減税

この文章はホリエモン氏が「減税することで逆に皆さんが苦しくなる理由を解説します」として主張したことに対して、反論として令和7(2025)年3月6日にSNSへ投稿したものを、加筆のうえ再構成した。

今の価格上昇はコストプッシュ

減税を否定する議論のなかで、近年もっとも広く流布しているものがある。減税をすれば人々の購買意欲が高まり、需要が増え、物価がさらに上がる。だから物価高の局面で減税をしてはならない、というものだ。
経済に明るいはずの実業家や識者からも、この主張はしばしば出る。それらしく聞こえる。
しかしこれは誤りである。いま起きている物価上昇が、どの種類のものかを取り違えていることだ。
物価上昇には性質の異なる2種類がある。需要が供給を上回って生じるものと、原材料やエネルギーの調達費用が上がって生じるものである。前者をディマンドプル、後者をコストプッシュという。処方箋がまったく異なるからこそ、区別が要る。
現在の日本の物価上昇の主因は、後者である。ガソリンをはじめとする輸入エネルギーの値上がりは、ウクライナ侵略戦争など地政学的な要因によるものだ。国内の消費者が買い控えようが買い増そうが、わが国が金利を上げようが下げようが、原油の国際価格はそれで動かない。食料品の値上がりも、大半は天候と国際市況によるものであって、国内の景気とは関係がない。
減税によって家計に資金が戻り、需要が多少増えたとしても、これらの価格がさらに押し上げられることはほとんどない。供給の制約が国内にあるわけではないからだ。
景気が過熱し、旺盛な需要が国内の供給能力を上回って物価を押し上げているのならいざ知らず、いま起きていることはそれとはまったく別である。
一方で、景気がよくなれば手取りは増える。物価がほとんど変わらないまま所得だけが増えるのだから、生活は楽になる。減税がインフレを悪化させるという主張は、この単純な帰結を見落としている。

「富裕層が得をする」という論法について

減税に反対する際、必ず持ち出されるもう一つの論法がある。「減税は富裕層ほど恩恵が大きく、生活必需品の値上がりに苦しむ低所得層はかえって割を食う」とするものである。
まず事実関係を確認しておきたい。富裕層は所得税の累進課税によって、すでに応能負担を求められている。負担が重い者に減税の効果が大きく及ぶのは当然である。多く払っている者に多く返る。それだけのことだ。
そのうえで低所得層への配慮を言うのであれば、答えははっきりしている。食料品の消費税をゼロにすることだ。
食料品への支出は、所得の低い世帯ほど家計に占める割合が高い。食費は節約も難しい。ここを軽くすれば、最も助けを必要とする層に最も厚く効く。所得を審査する必要も、申請の手続きもいらない。年5兆円弱の負担が、レジを通った瞬間に、誰にでも届く。
つまり富裕層が得をするから反対だという主張は、減税そのものへの反論になっていない。どの税を下げるかという設計の問題を、減税の是非の問題にすり替えているだけである。

論法の出どころ

この2つの論法は、いずれも財政当局が長く用いてきたものだ。
減税をすればインフレが悪化する。減税は富裕層を利する。どちらも減税を求める声を封じるために繰り返されてきた。一方は経済理論の装いをまとい、他方は弱者への配慮の顔をしている。だからこそ、オールドメディアで経済に通じた人物までがこれを口にする。批判すべきは個々の発言者ではないが、誤った前提が検証されないまま流通し、それが政策判断の根拠として通用してしまうことは大変危険である。
いま必要な経済政策は、これまで国民から政府が吸い上げすぎていた税を、少しでも返すことだ。基礎控除の引き上げ、年少扶養控除の復活、そして食料品の消費税ゼロ税率。いずれも新たな給付を作る話ではない。
税金の「過払い金返還請求」である。物価上昇の中身がコストプッシュ型である限り、減税をためらう理由はない。

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