まずは減税である。歳出改革も規制改革も必要だが、その成果が出るのを待ってから減税を考えるのでは遅い。当面の最優先課題は、食料品にかかる消費税減税だ。しかも恒久措置として法定する。期限つきの減税では、効果は半減しかねない。
増税が、回復の芽を摘んできた30年
なぜ日本の家計だけが、30年にわたって豊かになれなかったのか。
答えははっきりしている。景気が上向きかけるたびに、増税と緊縮でその芽を摘んできたからだ。1997年の消費税率引き上げも、2014年の8パーセントへの引き上げも、景気回復の途上で需要を冷やした。
いま物価を押し上げているのは、国内の需要の強さではない。海外のエネルギーと食料の輸入価格、そして円安を通じて、コストが川上から川下へ転嫁されている。それが現在の物価上昇の正体である。
景気が過熱して物価が上がっているのならいざ知らず、輸入コストに押されて上がる物価に対し、金利を引き上げたり増税で需要を削ったりするのは、処方箋の取り違えにほかならない。輸入インフレに効くのは、家計の手取りを直接増やす減税である。
なぜ、給付ではなく食料品のゼロ税率なのか
現行の食料品の消費税率を1パーセントに下げ、残る1パーセント分を給付で埋める実質ゼロという案がある。これでは足りない。また、給付は所得の捕捉に頼るため、対象から漏れる人が必ず出る。事務費がかかり、支給までに時間もかかる。
ゼロ税率なら、レジを通った瞬間に、誰にでも、申請なしに届く。政府が対象を選別する必要がない。そして給付金は政府が使い道を決めるが、減税は国民自身が使い道を決める。このことこそが、減税を景気対策として最も優れたものにしている。
食料品への支出は、所得の低い世帯ほど重い。そして手取りが増えたときに使い切る割合も高い。同じ1兆円を投じるなら、家計の消費として最も戻ってくるのが食料品の減税である。
しかもこれは、物価対策そのものだ。消費者物価に占める食料の比重は2割を超える。食料品の税率をゼロにすれば、機械的には1.5パーセント前後の押し下げ効果が生じる。転嫁が完全でなければ実際の効果はこれより小さくなるが、その分これまでデフレ下で耐えてきた流通過程の業者を助けることになる。それでも金利を上げて需要を冷やすより、はるかに直接的で痛みの少ない物価対策である。
そして恒久化が必要だ。いずれ元の税率に戻ると決められた減税は、家計から見れば終わりのわかっているボーナスでしかない。どうせ戻るとわかっている値下げは、消費に回らず貯蓄に沈む。フリードマンの恒常所得仮説が示したとおり、人は将来にわたって続くと確信できる収入だけを消費に回す。
加えて、期限が近づけば駆け込み需要と反動減が起き、2度目の1997年を招く。恒久でない減税は、効果が半減するだけでなく、出口で新たな傷をつくる可能性がある。
実務上の手当ても曖昧にはできない。一部で根強い誤解があるが、ゼロ税率は非課税とは違い、事業者は仕入れにかかった税の控除を受けられるため、負担が事業者に生じることはない。地方消費税と地方交付税を通じて生じる年1兆円を超える地方の減収は、国が全額を確実に補填する。消費税を社会保障の目的税とする法文上のみの建付けも、この機に見直すべきだ。社会保障は経済全体の力で支えるものであって、特定の税に縛りつける必然性はない。
想定される反論に答える
第一に、財源をどうするのかという問いがある。
政府は税収弾性値、つまり名目GDPが1パーセント伸びたときに税収が何パーセント伸びるかを、1.1から1.2程度と置いてきた。だが現実は違う。国の一般会計税収は84兆2226億円と、前年度の75兆2321億円から12.0パーセント増えた。名目成長率がその数分の1でしかない以上、単純に割れば弾性値は3から4の水準になる。ここ数年来、年間の見積もりが外れるのは偶然ではない。低く見積もっておけば、減税を求める声を財源がないの一言で退けられるからだ。
第二に、需要を刺激すればさらに物価が上がるという懸念がある。景気が過熱し、旺盛な需要が供給を上回って物価を押し上げているのならいざ知らず、現在の物価上昇の主因は輸入コストにある。国内需要が沸き立っているわけではない以上、需要を冷やすべき局面ではない。
第三に、子や孫にツケを回すなという言葉がある。これは増税を正当化するために使い古されてきた。財政の健全性を測る物差しは、単年度の収支ではない。名目成長率が名目金利を上回っている限り、債務残高の対GDP比は膨らまない。ドーマーの条件と呼ばれるこの関係こそ正しい基準であり、分母である名目GDPを伸ばすことが最も確実な財政再建策である。次の世代に引き渡してはならないのは残高の数字ではなく、賃金が上がらず、投資が起きず、人が減り続ける経済そのものだ。緊縮でその状態を固定することこそ、最大のツケ回しにほかならない。
いま決めるべきこと
食料品のゼロ税率を、期限を切らずに恒久措置として法定すること。地方の減収は国が全額補填し、消費税を社会保障の目的税とする建付けを改めること。そして、あらゆる財政試算の入口に置かれる1.2という税収弾性値を、直近10年の実績に即した水準へ改め、積算の前提を国会と国民に開示させること。
税収の見積もりが年に何兆円も外れ続けるかたわらで、家計の手取りは30年間伸びなかった。減税は財政に開いた穴ではなく、成長の起点である。まずは減税。それが不可欠だ。